◇第64回交通安全国民運動中央大会
◇演題「高齢運転者の事故防止のための心理学的対策」――科学警察研究所交通科学部 小菅律・主任研究官
高齢ドライバーの事故防止に向けた心理学的な対策として、小菅さんは①高齢運転者の現況②心理学的な交通事故防止対策について③科学警察研究所の研究紹介――の三つに分けて解説した。
■高齢者の事故に社会の関心高く
小菅さんはまず、年代別に運転免許保有者数の推移を示すグラフを紹介した。2012年から22年にかけて、10~40代は減少傾向にある一方、50代以上はおおむね増加傾向にあり、特に70歳以上は10年間で約50万人増加している。
「高齢ドライバーの割合が増加する中で、高齢ドライバーが関わる交通事故の報道が多くなされており、社会的な関心が高いということがうかがえる」と小菅さん。
内閣府が行った「交通安全意識等に関する国民アンケート調査」(19年)でも、重要対策のトップとして約7割の人が「高齢者(65歳以上)に関わる事故を減らす対策」を挙げていることを紹介。免許更新時に認知機能検査を導入するなど、これまでの国の免許制度の変遷についても説明した。
■事故防止で重要な「心理的側面」
続いて、心理学的な事故防止対策について解説した。
運転適性を判断するにあたっては、一般的に三つの要素が考慮されるという。①視力、聴力、手足の機能など身体機能の側面②認知症、睡眠障害、アルコール依存などの医学的な側面③安全に対する態度や反社会性のような心理的側面――の各要素だ。互いに関連し合って事故リスクが高くなったり、逆に低くなったりする。
例えば、雨が降ると暗くなって見えづらくなり、事故の危険性は増す。しかし、「危ないから、雨が止んでから運転しよう」と判断すると、事故リスクは低下する。この「心理的側面」は他の2要素に比べて変化・改善させやすいため、高齢者講習などを通じた「心理学的対策」の対象になるという。
■「自己モニタリング能力の向上を」
以上のことを踏まえて、小菅さんは科学警察研究所での研究内容を紹介した。自分の運転ぶりを過大評価している人は、速度超過などの違反行動や事故が多い傾向にあるため、「自分の運転ぶりを正しく自己評価できるようになれば、安全運転を促すことができるのではないか」との仮説に基づいて研究を行ったという。
この「自己モニタリング能力」を高めるため、運転ぶりを自己評価するワークブック(書き込み式学習帳)を開発。実際に、教習所の指導員と実車走行して「ワークブック教育」を受けたグループの場合は運転ぶりの改善が見られ、受けなかったグループには変化がなかったという。
この研究に加え、夫婦が「相互評価」を行った調査結果も紹介。小菅さんは「自分の運転ぶりに対する自覚を高める教育によって、安全性が高まる可能性が、研究によって明らかになりました。高齢ドライバーの事故防止対策においては、その家族や友人、ひいては国民全体が交通安全に対する運転者の心理・態度面の重要性を認識し、その変化に意識を向けることにより、今後の事故防止につながっていくのではないかと考えます」と講演を締めくくった。